一番ガーガロスを強いと思ってないのウィザーズ説
はじめに
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ancovered-mochi.hatenablog.com
能力モリモリ
MTGの基本セット2021(M21)に《長老ガーガロス》という謎のビーストくんが登場して少々話題になった。
5マナ6/6のサイズでありながら警戒、到達、トランプルに加え戦闘時誘発を備えている。一言で言えばヤケクソみたいなクリーチャーだ。
ここのところMTGは乱調気味で、最新セットを発売しては禁止カードを出し、発売しては禁止カードを出し、それを1年以上繰り返している。その矢先に、このヤケクソ感溢れる生物を刷ったことで「インフレすごい!」という声も聞かれたようだ。
しかし遡ってみれば、こういった5マナくらいの能力モリモリカードは環境に定期的に表れている。そのせいで僕のような(ぱっと見)パワーカード大好き人間は、時におばあちゃんから貰った参考書代までつぎ込んでは後悔してきた。
こういうクリーチャーが世に出るたびに「インフレだ、利益主義の末路だ」みたいなことを言われるが、恐らくWotCはこの手のカードがあまり活躍できないことを知っている。だからこそヤケクソの様に能力を盛ってくるのだろう。これはインフレがどうのこうのというより、MTGのシステム上の問題に起因する。
働かざるもの
時々話題にあがることではあるが、マジックザギャザリングにおいて、そもそもクリーチャーというカードタイプは弱い。
カードタイプとは土地、クリーチャー、エンチャント、アーティファクト、プレインズウォーカー、部族、インスタント、ソーサリーを指す(変種除く)。過去に消えた部族は別として、この中でクリーチャーが弱いとはどういうことか。
それは「確実性に劣るから」、平たく言えば「予定通りの働きを期待しづらいから」というところにある。
土地はプレイもマナ能力もスタックを使わないため、確実にマナを供給してくれる。土地から発生する起動/誘発型能力も実に妨害しづらい。
インスタント、ソーサリーである《ショック》《溶岩コイル》は、正常に解決されれば確実に対象にダメージを与えてくれる。《選択》や《耕作》のような対象を取らない呪文は、立ち消えがない分、より紛れの少ない結果をもたらす。これは「使い切りである」というデメリットを踏まえてなお魅力的だ。
アーティファクト、エンチャントは常在型、起動型能力を持つカードが多い。《無のロッド》や《寒気》も解決された瞬間から効力を発揮してくれる。
プレインズウォーカーが着地後に能力を即起動できることについては散々議論されてきた。近年に至っては常在型能力を獲得し、ますますエンチャントじみてきている。
アーナムは何回殴ったか
翻ってクリーチャーはどうだろうか。クリーチャーが最大の特徴とするのは右下の数字、すなわちパワー/タフネスである。このパワー/タフネスというのはほとんどの場合戦闘フェイズに限って大きな意味を持つ(参照するカードもあるよ、《投げ飛ばし》とかね)。召喚して成功し、相手のターンをやり過ごし、自分のターンに攻撃してようやく本懐を遂げるのだ(ブロックすることもできますよ、一応ね)。
それでも軽いクリーチャーはまだ良い。1~2マナであれば、早いターンに展開でき、あるいはツーアクション・スリーアクションとることができるため、相手が対処する前に攻撃できる算段が高くなる。
速攻や除去耐性もそうだ。ターンの進行に従って徐々に確実性は落ちてはいくが、とりあえず一回くらいは殴れるだろう。
しかし問題となるのは速攻も除去耐性もない重いクリーチャーである。まるで無職、無資格、40代みたいな響きだ。
重量クリーチャーの定義は意見が分かれるだろう。しかし、どの時期のスタンダードにも存在する3マナの確定除去でテンポをとられてしまう4マナ以上のクリーチャーは、常に「何もせずにテンポ損する」という深刻なリスクを抱えている。この条件下でなお戦闘で活躍できたのは上記のような一部のクリーチャーに限られる。
デカブツを活躍させるには
さて、WotCは重いクリーチャーを使ってもらうために色々な策を練ってきた。恐らく最もポピュラーなのが、クリーチャーをソーサリー化すること、すなわちcomes into play/cipクリーチャーだ(今はETB)。
cipは「重いクリーチャーを使わせる」メカニズムの中では最もうまくいっている。「解決された時点で仕事を果たす」というソーサリーの強みと、「戦場に残り続ける」というクリーチャーの強みが互いの短所を打ち消しているからだ。抱き合わせ故に重くなるがキャストによる確実性を考えればこれが一番素直なバリエーションだろう。
これらのcipクリーチャーは一般に、「出た時点で仕事してる」と言われることが多い。社畜からすれば仕事舐めてんのかとブチギレたくなるが、よく考えれば残酷な言葉だ。逆に言えばcipでないクリーチャーはマナコストを払い、唱えられ、解決されたにも関わらずまだ仕事ができていないということなのだから。
ちなみにcipの上位として「唱えたときに誘発」が生み出されている。
これらはもはやソーサリーより確実性が高く、「続唱」システムにも通じるものがある。もちろん(特に重量級になればなるほど)踏み倒しも考慮してのメカニズムだが、多くのマナを支払って唱えるのであればこれくらいの確実性は当然かもしれない。
その他のバリエーションとして、ソーサリーではなくエンチャント化を目指したクリーチャーもまた多い。
《磁石のゴーレム》や《月の大魔術師》のような常在型持ちは意見が分かれるだろうが、基本的に除去されたら元通りであり、置物と比較して除去されやすいクリーチャーは確実性に劣る。そのためcipと比較するとこの手の大型クリーチャーの活躍例は(踏み倒しを考慮しなければ)かなり少ない。そのマナコスト故に恵まれたスタッツを持つが、しかしこれらは最悪殴らなくても良いのだ。
誘発、常在ときたら起動型能力にも触れておこう。前二種と違い、大型クリーチャーの起動型能力については、使われるか使われないかの重大な分水嶺がある。タップ能力だ。
タップ能力でない起動型能力は、戦場に出て条件を満たしていればすぐに使うことができる。ただし多くはマナを使用する能力であり見た目以上に重い。たまに《グリセルブランド》のようなクソバカアホマヌケイカレ能力はあるが、大概は穏当なラインに収まりやすい。
一方のタップ能力。これには攻撃と同様、召喚したターンには使用できないという致命的な欠点があり、さらに能力を使うと攻撃できないというジレンマまで抱えている。cipクリーチャーと違い、逆に弱くなってしまっていると言っても過言ではない。このためデカブツのタップ能力に関してはデカブツバニラと同様どれだけ盛ってもまぁいいかと思われているフシがある。なぜかその割に警戒はつけない。
ここまで列挙したのは「デカブツは唱えるだけでよしとしましょう」というアプローチである。いずれも戦闘などという煩わしいフェイズを1ターン先まで待たなくてもよい。要するに他のカードタイプとミックスすることで重量クリーチャーの遅効性をできるだけ払拭しようとしたのだ。そしてそれは概ね成功していると言えるだろう。
自称相棒たち
上述したがWotCは重いクリーチャーを暴れさせるためには、結局のところ出たターンに仕事をさせるのが一番早いことを十分に理解している。それを証明する近年の例が相棒だ。
相棒はイコリア初出で、今までのルールとは一線を画す、いわゆる目玉カードだ。WotCはどうしても相棒に活躍してほしかったと見える。だからこそリリースされたそれらは、ソーサリーやエンチャントのお化けと化してしまったのだ。(追記:《ジェガンサ》のこと忘れてました)
それこそがWotCの判断ミスの一つだと思う。そもそも相棒は確実にゲーム外から唱えられるのに、その上能力にまで確実性を持たせるべきではなかった。
結局のところ相棒たちはパワーレベルエラッタを食らい、事前にさらに3マナを要求するようになった。つまり「出したターンに仕事するのが強すぎる」から「出せるターンを遅らせた」のである。その変更内容の良し悪しは別として、個人的にはクリーチャーらしいエラッタだと感じる。
能力モリモリモリモリ
ずいぶん遠回りしてきたが話は《ガーガロス》に戻る。ここまで挙げてきた能力に対して《ガーガロス》の能力は見事に戦闘に関連する能力しかない。それはつまりカードタイプ:クリーチャーとしてのハンデを一身に背負っている-パワーも含めて必ず戦闘を介さなければ役に立たないということだ。
そして恐らくWotCは、これをわかってやっている。イコリアの相棒の強化の方向性と《ガーガロス》の強化の方向性が真逆だからだ。一体どれほど《悪斬の天使》型の強化をしてもいいのか測っている最中なのだろう。
実は《ガーガロス》に関しては、強弱関係なくあまり活躍しないでほしいと思っている。そうすれば近い未来、更なる能力モリモリモリモリカードが見られるかもしれないからだ。